シクロデキストリン(以下CDと略す)とは、環状オリゴ糖である。
その存在は100年も前から確認されているが、1980年代に入り、ようやく
工業規模で用いられるようになった。1996年には1年間に2000トンが工業的に
使われるに至っている。
CDはクラウンエーテルのように包接能を有する化合物の一種で、
環の内部に様々な分子を取り込むことが出来る。特にCDは環の外部は親水性で、
内部は疎水性であるという特異的な構造をとっている。したがって、酸や
アミンのような有極性イオン分子から無極性の脂肪族や芳香族の炭化水素、
さらには希ガスに至るまで様々な分子を取り込んで包接複合体を形成する
ことができる。この包接機能を利用して、環内のゲスト分子(包接された分子)
の安定性を増大させたり、悪臭・異味の除去などに利用されている。
現在では、環の大きさを変える試み以外に、水酸基を保護したり、
水酸基の立体を変えたりなどして新たな機能を持たせたり、無害なものを
作り出す研究も行われている。
単糖自体は、いわゆるイス型配座をとっている。また、グリコシド結合をとっているため、
還元性は示さず、酸による分解を受ける。上に示したように、環の内部はC-H結合部のため、
疎水性であり、外部は水酸基による親水性を示す。また、1級水酸基側は環の経が小さく
なっている。
包接化合物の形成は、主にホスト化合物(CD)とゲスト化合物のVan der Waals力と、
水酸基による水素結合による。また、包接化合物の形成には「水」が重要な役割を持つ。
すなわち、CDを水に溶かすと水分子のいくつかがCD内部に入り込む。しかし、
内部は無極性であり、さらに環の大きさが固定されているので水分子は水素結合
できずに高エネルギー状態(不安定)になっている。そこにゲスト分子を加えると、
ゲスト分子が高エネルギー状態の水分子を追い出すことにより、エネルギーに安定化
すると考えられている。
酸化、熱分解、光分解の防止、異味異臭の除去などに利用されている。これは、
包接化合物にすることにより、安定性を増したり、異味異臭の物質をトラップする
働きを利用したものであり、CD自体が熱にも安定であることも幸いしている。
具体的には、粉末スパイス(シナモン、ハッカ、にんにく、ショウガ、ワサビ、
カラシ、コショウなど)などCDで包接されたスパイスが市販されている。
医薬品分野でも安定性を増す働きを利用している。さらに、溶解性、吸収性を
増す働きもある。
化粧品やトイレタリー分野では主に香料の可溶化、揮発性制御の目的で利用
されている。また、化粧品の透明感の維持、組成中の油分がにじみでるいわゆる
「汗かき現象」の防止にも利用されている。
その他、様々な機能化を目指し開発が行われており、将来的には様々な分野で
期待が持たれている。
「難しいことを抜きにして、一般の人にもわかり易いホームページ」というコンセプトで
シクロデキストリンを紹介しているホームページがあり、
ここから
行けます。
当然シクロデキストリンが何かを包接すると、当然NMRにも影響します。
αシクロデキストリンは下右図(a)のようなNMRスペクトルであるが、p
ニトロフェノール(PNP)を包接すると(下左図)、下右図の(b)のようなスペクトルになる。
特にH-3とH-5が高磁場シフトしているのがわかる。